浦和地方裁判所 昭和58年(行ウ)9号 判決 1985年3月25日
原告
上松正之
右訴訟代理人
小山利男
被告
川口税務署長
金井優
右指定代理人
江藤正也
外六名
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一 当事者の求める裁判
一 原告
「1 被告が昭和五七年一月二六日付でなした原告に対する昭和五四年分及び同五五年分の所得税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)並びに過少申告加算税賦課決定処分(以下「本件加算処分」、といい、本件更正処分と併せて称するときは「本件課税処分」という。)を取消す。2 訴訟費用は被告の負担とする。」との判決
二 被告
主文同旨の判決
第二 当事者の主張
一 原告・請求原因
1 原告は、昭和五四年八月二九日有限会社伊藤一産業(以下「伊藤一産業」という。)との間で、別紙物件目録(一)記載の原告所有の土地(以下「本件(一)の土地」という。)を農地法五条一項三号に基づく農地転用届出書の受理を条件として代金一八〇〇万円で売渡す旨の契約を締結し、同年一二月二〇日埼玉県知事より右農地転用届を受理されて右会社に本件(一)の土地の所有権が移転したので、翌五五年三月一五日右土地の譲渡所得については租税特別措置法(昭和五七年法律第八号による改正前のもの。以下「措置法」という。)三一条の三第一項の適用があるものとして別表一の「確定申告」欄記載のとおり確定申告をした。
2 原告は、昭和五五年四月一八日別紙物件目録(二)記載の原告所有の土地(以下「本件(二)の土地」という。)につき、埼玉県知事より農地法五条一項三号の届出を受理され、同年六月二五日伊藤一産業に対し右土地を代金二八一〇万円で売渡して、右会社に本件(二)の土地の所有権が移転したので、翌五六年三月一六日右土地の譲渡所得については措置法三一条の三第一項の適用があるものとして別表二の「確定申告」欄記載のとおり確定申告をした。
3 被告は、原告に対し昭和五七年一月二六日別表一、二の各「更正及び加算税賦課決定」欄記載のとおりの本件課税処分をなした。
4 本件課税処分の違法性
(一) 被告が、本件各土地の不動産登記簿上の地目が田又は畑であるのに、譲渡時の現況が農地ではないとして措置法三一条の三第一項を適用しないでした本件課税処分は、同法の解釈を誤つた違法な処分である。即ち、措置法三一条の三第一項は、特定市街化区域農地を宅地の用その他政令で定める用途に供するために譲渡した場合の所得税の軽減を規定したものであるが、同項にいう「特定市街化区域農地等」につき「農地」の要件は、不動産登記簿上の地目が田又は畑である土地であつて、農地法上の規制を受けている土地、即ち、いわゆる宅地並み課税されている土地(本件各土地は、宅地並み課税されている。)であり、その現況は問われないからである。
しかも被告等課税庁は、従来現況が農地と認められない特定市街化区域内の土地についても措置法三一条の三第一項を適用していたところ、突如として従来の方針を土地譲渡者に不利益に変更して本件課税処分をなしたものであるが、法の改正によらず、法の解釈の変更によつて原告に不利な課税をする本件課税処分は、租税法律主義に反するとともに憲法の精神に反する違法な処分である。
(二) 本件各土地は、譲渡時の現況も農地であるにもかかわらず、本件課税処分は、これを雑種地と認定してなされたものであつて、この点においても違法である。即ち、原告の父正雄は、本件(一)、(二)の各土地を所有し、耕作していたが、昭和五三年三月ころ病に倒れ、水田における重労働を避ける目的で、田の部分(別紙物件目録(一)の一)を埋立てて畑とし、耕作を続けた。その後、正雄は、病が進行して昭和五三年一二月一五日死亡し、原告は、相続によつて本件(一)、(二)の各土地の所有権を取得した。右各土地は、正雄の病のため一時耕作されず休耕の状態にあつたが、各譲渡時の現況は農地であつた。
ところで、草加市の固定資産税・都市計画税課税台帳(以下、台帳という。)には、本件(一)、(二)の各土地について雑種地と記載されているが、これは、草加市においては、いわゆる農地の宅地並み課税を実施するにつき、耕作されていない農地に対する課税を直ちに宅地並みとすることなく、右のような農地を宅地と現況農地の中間に位置するものとし、雑種地と同様に評価して課税する取扱をしていることに由来するものであつて、文字通り、現況が雑種地であることを示すものではない。
(三) 仮に本件更正処分は適法であるとしても、本件加算処分は違法である。即ち、原告は、国税庁広報課監修にかかる「やさしい譲渡所得」と題する「財協の税務教材シリーズ」昭和五五年度版等に示された国税庁の指針に副つて確定申告をなしたものであり、その申告にかかる税額計算の方法に誤りがあつたとしても、その誤りにつき国税通則法六五条二項にいう正当な理由があるというべきだからである。
よつて、原告は、本件課税処分の取消を求める。
二 被告
認否
1 請求原因1ないし3の事実は認める。
2 同4(一)の事実は否認し、その主張は争う。
同4(二)の事実のうち、草加市の台帳に本件(一)、(二)の各土地が雑種地と記載されていること、原告の父正雄が昭和五三年一二月一五日死亡し、原告は本件(一)、(二)の各土地を相続により取得したことを認め、その余は、知らない。
同4(三)の事実は否認し、その主張は争う。
主張
1 本件更正処分の根拠
原告の昭和五四年分及び同五五年分の所得税額の内容は、次のとおりである。<編注・下段表右側参照>
昭和五四年分
順号
項目
金額(円)
(一)
課税総所得金額
一、一八〇、〇〇〇
(二)
分離課税長期譲渡所得金額
一六、一〇〇、〇〇〇
(三)
(一)に対する税額
一二九、六〇〇
(四)
(二)に対する税額
三、二二〇、〇〇〇
(五)
算出税額
三、三四九、六〇〇
(六)
源泉徴収税額
一二九、六〇〇
(七)
納付すべき税額
三、二二〇、〇〇〇
右項目の内容は、次のとおりである。
(一) 課税総所得金額 一一八万円
右金額は、給与所得二二七万八三六八円から所得控除額合計一〇九万八三一四円を控除した金額(国税通則法一一八条一項により一〇〇〇円未満切捨て)であるが、原告が確定申告をした金額と同額で、審査請求に至るまで原告の争わないところである。
(二) 分離課税長期譲渡所得金額 一六一〇万円
右金額は、原告が原告所有の本件(一)の土地を伊藤一産業に昭和五四年八月二九日、農地法五条一項三号の届出の受理を条件に(同年一二月二〇日埼玉県知事から当該届出の受理通知を受けた。)譲渡したことについての収入金額一八〇〇万円から取得費九〇万円及び長期譲渡所得の特別控除額一〇〇万円の合計一九〇万円を控除した金額であるが、原告が確定申告をした金額と同額で、審査請求に至るまで原告の争わないところである。
(三) 課税総所得金額に対する税額 一二万九八〇〇円
右金額は、原告が確定申告をした金額と同額で、審査請求に至るまで原告の争わないところである。
(四) 分離課税長期譲渡所得金額に対する税額 三二二万円
右金額は、本件(一)土地の譲渡が措置法三一条一項一号に該当することとなるため、分離課税長期譲渡所得金額に対し一〇〇分の二〇を乗じて算出したものである。
(五) 算出税額 三三四万九六〇〇円
右金額は、課税総所得金額に対する税額と分離課税長期譲渡所得金額に対する税額の合計額である。
(六) 源泉徴収税額 一二万九六〇〇円
右金額は、給与所得に係る源泉徴収税額であるが、原告が確定申告をした金額と同額で、審査請求に至るまで原告の争わないところである。
(七) 納付すべき税額 三二二万円
右金額は、算出税額から源泉徴収税額を控除した金額である。
<編注・左表左側参照>
昭和五五年分
順号
項目
金額(円)
(一)
課税総所得金額
一、四一六、〇〇〇
(二)
分離課税長期譲渡所得金額
二五、六九五、〇〇〇
(三)
(一)に対する税額
一六二、一〇〇
(四)
(二)に対する税額
五、一三九、〇〇〇
(五)
算出税額
五、三〇一、一〇〇
(六)
源泉徴収税額
一六二、一〇〇
(七)
納付すべき税額
五、一三九、〇〇〇
右項目の内容は、次のとおりである。
(一) 課税総所得金額 一四一万六〇〇〇円
右金額は、給与所得二五八万四二一二円から所得控除額合計一一六万七四一九円を控除した金額(国税通則法一一八条一項により一〇〇〇円未満切捨て)であるが、原告が確定申告をした金額と同額で、審査請求に至るまで原告の争わないところである。
(二) 分離課税長期譲渡所得金額 二五六九万五〇〇〇円
右金額は、原告が原告所有の本件(二)の土地につき農地法五条一項三号の届出をなし、昭和五五年四月一八日埼玉県知事から当該届出受理の通知を受け、同年六月二五日これを伊藤一産業に譲渡したことに係る収入金額二八一〇万円から取得費一四〇万五〇〇〇円及び長期譲渡所得の特別控除額一〇〇万円の合計二四〇万五〇〇〇円を控除した金額であるが、原告が確定申告をした金額と同額で、審査請求に至るまで原告の争わないところである。
(三) 課税総所得金額に対する税額 一六万二一〇〇円
右金額は、原告が確定申告をした金額と同額で、審査請求に至るまで原告の争わないところである。
(四) 分離課税長期譲渡所得金額に対する税額 五一三万九〇〇〇円
右金額は、本件(二)の土地の譲渡が措置法三一条一項一号に該当することとなるため、分離課税長期譲渡所得金額に対し一〇〇分の二〇を乗じて算出したものである。
(五) 算出税額 五三〇万一一〇〇円
右金額は、課税総所得金額に対する税額と分離課税長期譲渡所得金額に対する税額の合計額である。
(六) 源泉徴収税額 一六万二一〇〇円
右金額は、給与所得に係る源泉徴収税額であるが、原告が確定申告をした金額と同額で、審査請求に至るまで原告の争わないところである。
(七) 納付すべき税額 五一三万九〇〇〇円
右金額は、算出税額から源泉徴収税額を控除した金額である。
2 本件過少申告加算税賦課決定処分の根拠について
昭和五四年分
本件更正処分により原告が新たに納付すべきこととなる所得税額は、原告が申告納付した二四一万五〇〇〇円と納付すべき税額三二二万円との差額八〇万五〇〇〇円となるため、被告は国税通則法六五条一項に基づき当該所得税額に一〇〇分の五の割合を乗じて計算した金額四万〇二〇〇円(同法一一九条四項により一〇〇円未満切捨て)を過少申告加算税として賦課決定した。
昭和五五年分
本件更正処分により原告が新たに納付すべきこととなる所得税額は、原告が申告納付した三八五万四二〇〇円と納付すべき税額五一三万九〇〇〇円との差額一二八万四八〇〇円となるため、被告は国税通則法六五条一項の規定に基づき当該所得税額(同法一一八条三項により一〇〇〇円未満切捨て)に一〇〇分の五の割合を乗じて計算した金額六万四二〇〇円を過少申告加算税として賦課決定した。
3 本件土地の譲渡は、措置法三一条の三に該当しない。
(一) 措置法三一条の三における「農地」の意義
(1) 措置法一条は、用語の定義について規定しているが、その中に農地の定義はない。そして、同法三一条の三第一項、二項において、農地法が引用され、また同条二項において、措置法が引用され、同法は更に地方税法を引用している。以上のことから措置法が農地法等の法律と整合性をもつて制定されていることは明らかである。したがつて、措置法に規定する農地についての解釈(認定)は右の各法律に委ねられているということができる。
(2) 農地法においては、農地とは「耕作の目的に供される土地」をいうものとされており(同法二条一項)、同条にいう農地であるかどうかは、当該土地の客観的状態、すなわち現況によつて決り、所有者がその土地を農地として使用する目的であつたかどうかという主観的意図は原則として関係がないとするのが一般であり、最高裁昭和四二年一〇月二七日第二小法廷判決・民集二一巻八号二一七一ページ等多数の判例の明言するところである。また、地方税法においても、同法三八八条一項に基づく固定資産評価基準(昭和三八年自治省告示第一五八号)において、地目の認定は現況によるものとされている。
(3) したがつて、措置法に規定されている農地についても、その認定基準は譲渡の時点の当該土地の現況によるべきことは明らかである。そして、右の考えから、措置法三一条の三第三項、同法施行規則一三条の四において、同法同条一項の適用を受けるためには、市長の特定市街化区域農地である旨を証する書類を添付することを要する旨規定しているものであるが、右の趣旨は、課税庁に当該土地の現況等を確認なさしめようということに存するのである。
(二) 本件土地の譲渡時の現況
草加市の台帳によれば、本件(一)、(二)の各土地は、いずれも昭和五四年度以降現況雑種地であり、雑種地として課税されている。
また、右台帳の現況地目の認定は、草加市による実地調査に基づいてなされたものであるが、本件訴訟が提起されるまで原告から何らの異議申立てがなされていない。
以上の事実から本件各土地は譲渡時において、現況が雑種地であつたことが明らかである。
4 原告は、被告が従来の取扱いを変更して、現況が農地であるか否かを問題として措置法三一条の三第一項の適用を否認したのは違法である旨主張するが、課税庁において、同条の取扱いを変更した事実はなく、従来から現況が農地でない土地の譲渡については、同条の適用はしていない。
第三 証拠<省略>
理由
一請求原因1ないし3の事実は、当事者間に争いがない。
二本件更正処分の適否
1 昭和五四年分
(一) 課税総所得に対する課税
原告の昭和五四年分の課税総所得金額が被告主張のとおり一一八万円(国税通則法一一八条一項により一〇〇〇円未満切捨て)であり、これに対する所得税額が一二万九六〇〇円であることについて、原告がその旨の確定申告をし、その後もこれを争つていないことは、原告の明らかに争わないところであるから、本件においてこれを前提とするを妨げない。
(二) 長期譲渡所得に対する課税
(1) 原告が、昭和五四年八月二九日伊藤一産業に対し、本件(一)の土地を、農地法五条一項三号に基づく農地転用届出書の受理を条件として代金一八〇〇万円で売却したこと(同年一二月二〇日農地転用届出書受理)、原告が、昭和五五年三月一五日別表一「確定申告」欄記載のとおり確定申告したことについては前記のとおり当事者間に争いがなく、また、<証拠>によれば、正雄は昭和三二年七月二三日本件(一)の土地を売買により取得したこと、正雄が同五三年一二月一五日死亡したため、原告は相続により本件(一)の土地を取得したことが認められるから、本件(一)の土地の譲渡による譲渡所得については措置法三一条一項の適用がある。
(2) 原告が、本件(一)の土地を譲渡したことにより取得した課税長期譲渡所得は右譲渡代金一八〇〇万円から取得費九〇万円及び長期譲渡所得の特別控除額一〇〇万円合計一九〇万円を控除した金額である一六一〇万円であることについて、原告がその旨の確定申告をし、その後も争つていないことは、原告の明らかに争わないところであるから、本件においてこれを前提とするを妨げない。
従つて、本件各土地の譲渡による課税長期譲渡所得は四〇〇〇万円以下の場合であるから、措置法三一条一項一号に該当し、同号に従つて算定した所得税額は三二二万円である。
2 昭和五五年分
(一) 課税総所得に対する課税
原告の昭和五五年分の課税総所得金額が被告主張のとおり一四一万六〇〇〇円(国税通則法一一八条一項により一〇〇〇円未満切捨て)であり、これに対する所得税額が一六万二一〇〇円であることについて、原告がその旨の確定申告をし、その後もこれを争つていないことは、原告の明らかに争わないところであるから、本件においてこれを前提とするを妨げない。
(二) 長期譲渡所得に対する課税
(1) 原告が、昭和五五年六月二五日伊藤一産業に対し本件(二)の土地を代金二八一〇万円で売却したこと(同年四月一八日農地法五条一項三号に基づく農地転用届出書受理)、原告が、同五六年三月一六日別表二「確定申告」欄記載のとおり確定申告をしたことについては前記のとおり当事者間に争いがなく、また、<証拠>によれば、正雄は、昭和三二年七月二三日本件(二)の土地を売買により取得したこと、正雄が同五三年一二月一五日死亡したため、原告は、相続により本件(二)の土地を取得したことが認められるから、本件(二)の土地の譲渡による譲渡所得については措置法三一条一項の適用がある。
(2) 原告が、本件(二)の土地を譲渡したことにより取得した課税長期譲渡所得は右譲渡代金二八〇〇万円から取得費一四〇万五〇〇〇円及び長期譲渡所得の特別控除額一〇〇万円の合計二四〇万五〇〇〇円を控除した金額である二五六九万五〇〇〇円であることについて、原告がその旨の確定申告をし、その後も争つていないことは、原告の明らかに争わないところであるから、本件においてこれを前提とするを妨げない。
従つて、本件(二)の土地の譲渡による課税長期譲渡所得は四〇〇〇万以下であるから、措置法三一条一項一号に該当し、同号に従つて算定した所得税額は五一三万九〇〇〇円である。
3 ところで、原告は、本件各土地は、措置法三一条の三第一項にいう「特定市街化区域農地等」に該当するから、本件各土地の譲渡による譲渡所得に対する課税については、同条同項が適用されるべきである旨主張するが、原告の右主張は以下に述べるとおり理由がない。
(一) 原告は、措置法三一条の三第一項の特定市街化区域農地等につき、農地であるか否かは不動産登記簿上の地目によるべきであつて、その現状を問わない旨、ことにいわゆる宅地並み課税のなされている農地(登記簿上のそれをいうと解される。)を含む旨主張するけれども、右見解は独自の見解であつて、採用の限りでない(登記簿上農地であつて、現況農地でない土地が非農地として固定資産税の賦課を受けている場合、これをいわゆる宅地並み課税というべきか否かは格別、これに法条の文言を無視して同条項の特典を与えなければならないいわれはない。)。
原告は、被告が従来、現況農地と認められない土地についても措置法三一条の三第一項を適用しており、突如として、従来の取扱を法の改正によらずして納税者に不利益に変更してなした本件各課税処分は租税法律主義に反する旨主張するが、被告が従来、原告の右主張のような取扱いをしていたことを認めるに足る証拠はなく(甲第一九号証がその根拠となりえないことは、後記三に説示するところから明らかである。)、その余について判断するまでもなく原告の右主張は理由がない。
(二) 更に原告は、本件(一)、(二)の各土地のそれぞれの譲渡時の現況も農地であり、これを雑種地とする被告の認定は誤りである旨主張する。
およそある土地の現況が、措置法三一条の三第一項の特定市街化区域農地等の「農地」であるとは、それが現に耕作されている田若しくは畑であるか、又は、現に耕作されていない状態にあつても耕作するつもりになれば、いつでも簡単に耕地として復旧しうる田若しくは畑であることを要すると解すべきところ(特定市街化区域農地の固定資産税の課税の適正化に伴う宅地化促進臨時措置法二条、地方税法附則一九条の二第一項、一七条一号、農地法二条一項参照)、これを本件各土地の譲渡時の状況についてみるに、<証拠>によれば、原告の父正雄は、生前上松輸送なる会社の役員兼整備士として稼働していたため、昭和三二年七月二三日本件(一)、(二)の各土地を取得した後も、自らこれらを耕作することはなく、昭和四二年ころまでは、他人に頼んで耕作して貰つていたものの、遅くとも昭和四九年以降はそれも止めてしまつたこと、そのころ、正雄は知り合いの土建業者に依頼して、本件(一)、(二)の各土地に土盛をしたこと、その後、本件(一)、(二)の各土地は、草加市の下水道工事が施工された際、一時工事材料置場として利用されたことがある他は、常時庭石五、六個が置かれたまま、荒地として放置されていたことが認められ、また、<証拠>によると、草加市においては、昭和四八年から市街化区域内に存する土地であつて、不動産登記簿上の地目が田又は畑となつている土地については、毎年一月にその現況について調査をし、台帳に現況の記載をなしているところ、同五三年度の台帳の「現況」欄においては、草加市吉町二丁目六一九番一の土地(以下、六一九番一の土地といい、他の土地についても地番のみで記載する。<証拠>によれば、本件(一)の土地のうち六一九番四の土地は、昭和五三年九月二五日の分筆まで、右六一九番一の土地の一部であつたことが認められる。)については「田」、六二〇番の土地(<証拠>によれば、本件(一)の土地のうち六二〇番三の土地及び本件(二)の土地のうち六二〇番四の土地は、いずれも昭和五三年九月二五日の分筆まで、右六二〇番の土地の一部であつたことが認められる。)、六二一番の土地(<証拠>によれば、本件(二)の土地のうち六二一番三ないし六の各土地は、いずれも昭和五三年九月二五日の分筆まで、右六二一番の土地の一部であつたことが認められる。)については「畑」との記載があり、同五四年度の台帳の「現況」欄には、六一九番三の土地(<証拠>によれば、本件(一)の土地のうち六一九番四の土地は、昭和五四年八月三〇日の分筆まで、右六一九番三の土地の一部であつたことが認められる。)、六二〇番二の土地(<証拠>によれば、本件(一)の土地のうち六二〇番三の土地及び本件(二)の土地のうち六二〇番四の土地は、いずれも昭和五四年八月三〇日の分筆まで、右六二〇番二の土地の一部であつたことが認められる。)、六二一番一の土地(<証拠>によれば、本件(二)の土地のうち、六二一番五、六の各土地は、いずれも昭和五五年三月二六日の分筆まで、右六二一番一の土地の一部であつたことが認められる。)、六二一番二の土地(<証拠>によれば、本件(二)の土地のうち六二一番三、四の各土地は、いずれも昭和五五年三月二六日の分筆まで、右六二一番二の土地の一部であつたことが認められる。)について、いずれも「雑種地」との記載があり、同五五年度の台帳の「現況」欄においては、六一九番四、六二〇番二、三、六二一番一の各土地について、いずれも「雑種地」との記載がされていることが認められる。他に以上の認定を左右するに足りる証拠はない。
なお、草加市長の昭和五六年二月二六日付証明書(<証拠>)には、本件(一)、(二)の各土地がB農地であるとの記載があるが、<証拠>に照らせば、右記載は昭和四八年一月一日現在本件各土地がB農地であることの証明にすぎないことが認められる。
以上の事実を総合すると、本件各土地の譲渡時における現況は、前述の意味における農地とは認め難く、却つて、農地ではなかつたことを認めることができ、従つて、本件各土地の譲渡による譲渡所得に対する課税について措置法三一条の三第一項の適用はないというべきである。
4 そうすると、原告の昭和五四年分の所得税の額は、三三四万九六〇〇円、昭和五五年分の所得税の額は、五三〇万一一〇〇円となり、これと同一の結論をとる本件更正処分は、適法である。
三本件加算処分の適法性
本件更正処分により原告が新たに納付すべき所得税額は、前記二4記載の各金額から前記の各課税総所得(給与所得)にかかる源泉徴収税額を控除し、更にこれらから前記の原告の申告納付した各金額を差引いた額、すなわち、昭和五四年分につき八〇万五〇〇〇円、昭和五五年分につき一二八万四八〇〇円となるところ、国税通則法六五条一項に基づき、右各金額(同法一一八条三項により一〇〇〇円未満切捨て)の一〇〇分の五に相当する金額の過少申告加算税が課されるべきであつて、本件加算処分は適法である。
なお、原告は、国税庁の指針に副つて確定申告をしたのであるからその税額計算の方法が誤つていたとしても、その誤りにつき国税通則法六五条二項にいう正当の理由がある旨主張するけれども、原告が、それに副つて確定申告をなしたと主張する「財協の税務教材シリーズ4昭和五五年度版やさしい譲渡所得国税庁広報課監修」(<証拠>)には、「特定市街化区域の農地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の税額の計算」について固定資産税について宅地なみの課税を受けるいわゆる特定市街化区域内のA農地及びB農地を昭和五六年一二月三一日までに宅地用等として譲渡した場合は、通常の場合より税率が軽減される制度として措置法三一条の三第一項に規定される内容が紹介されているが、そこに示された「農地」が不動産登記簿上の地目によるものであつて、その現況を問わないとの指摘は存しない。
他に原告の確定申告における税額の計算が、国税庁の指針に副つてなされたものと認めるに足りる証拠はないので、原告の右主張は理由がない。
四結論
以上のとおり、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担については、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官高山 晨 裁判官小池信行 裁判官深見玲子)
課税処分の経緯
表一 (昭和54年分)
(単位 円)
順号
①
②
③
④
⑤
⑥
区分
確定申告
更正及び
加算税賦課決定
異議申立て
異議に対
する決定
審査請求
裁決
年月日
55.3.15
57.1.26
57.3.13
57.6.7
57.6.23
58.5.24
総所得金額(給与所得)
2,278,368
2,278,368
2,278,368
棄却
2,278,368
棄却
分離課税による
長期譲渡所得金額
16,100,000
16,100,000
16,100,000
16,100,000
課税総所得金額
1,180,000
1,180,000
1,180,000
1,180,000
課税長期譲渡所得金額
16,100,000
16,100,000
16,100,000
16,100,000
納付すべき所得税額
2,415,000
3,220,000
2,415,000
2,415,000
過少申告加算税
―
40,200
―
―
表二 (昭和55年分)
順号
①
②
③
④
⑤
⑥
区分
確定申告
更正及び
加算税賦課決定
異議申立て
異議に対
する決定
審査請求
裁決
年月日
56.3.16
57.1.26
57.3.13
57.6.7
57.6.23
58.5.24
総所得金額(給与所得)
2,584,212
2,584,212
2,584,212
棄却
2,584,212
棄却
分離課税による
長期譲渡所得金額
25,695,000
25,695,000
25,695,000
25,695,000
課税総所得金額
1,416,000
1,416,000
1,416,000
1,416,000
課税長期譲渡所得金額
25,695,000
25,695,000
25,695,000
25,695,000
納付すべき所得税額
3,854,200
5,139,000
3,854,200
3,854,200
過少申告加算税
―
64,200
―
―
物件目録(一)(譲渡時の不動産登記簿上の表示、(二)も同じ)
一 草加市吉町二丁目六一九番四
田 一二〇平方メートル
二 同所六二〇番三
畑 一一平方メートル
物件目録(二)
一 草加市吉町二丁目六二一番六
畑 一四平方メートル
二 同所六二〇番四
畑 八九平方メートル
三 同所六二一番三
畑 一六平方メートル
四 同所六二一番四
畑 八・六八平方メートル
五 同所六二一番五
畑 九〇平方メートル